俺とお前と深夜の攻防 第2話「深夜コンビニ遠征」

第2話 深夜コンビニ遠征

深夜1時。田中がリュックを背負ってリビングに現れた。

「どこ行くの」

「コンビニ」

「なんで1時に」

「限定アイスが入荷する時間だから」田中は真顔だった。「お前も来る?」

断る理由もなかったので行くことにした。実際のところ、最近の日々は退屈で、深夜のコンビニ遠征くらいなら悪くないと思った。それに、第1話での「ルームメイト規約」の成立以来、田中との関係は微妙に変わっていた。何か一種の同志意識が生まれていたのだ。

コンビニまでの道を歩きながら、田中が言った。「規約第3条を追加したい。『深夜コンビニ遠征には原則同行する』」

「なんで原則なの」

「お互い体調不良の場合は除く。誠意的配慮として」

「その『誠意』はどこから来てるの」

「規約の精神から来てる」

田中の真顔で返す答えに、思わず笑ってしまった。こいつは本気でこんなことを考えているのか、それとも何か別の意図があるのか。23時を過ぎた住宅街の道を歩きながら、そんなことを考えるのは馬鹿らしいが、同時にどこか楽しくもあった。夜風が肌に心地よく、街灯の光が二人の影を長く伸ばしていた。

コンビニの暖簾をくぐると、蛍光灯の眩しさに一瞬目が慣れるまでかかった。深夜のコンビニは独特の空気を持っていた。昼間の喧騒とは無縁で、静寂に包まれた時空間。店員は雑誌を読んでいて、客は俺たちだけだった。

コンビニに着くと、田中は冷凍ケースの前で5分間微動だにしなかった。蛍光灯に照らされた冷凍アイスの列を前に、彼は石像のように立ち尽くしていた。メロンとマンゴーで迷っているらしかった。その真剣な表情からは、単なるアイス選びではなく、人生をかけた大事な決断のように見えた。

「どっちも買えばいい」と言うと、「規約第4条を作る必要があるな」と言われた。

「どんな条文」

「『コンビニでは合計300円以内に収める』。金銭管理の規律として」

俺は呆れ返った。こいつはほんの一言で新しい規約を作ってしまう。それも理由をつけて。法律家のようなその姿勢は、ある意味で感心に値するのだが、同時に相当にうざったい。

「それは誠意じゃなくてケチじゃないの」

田中は少し考えた後、「そうかもしれない」と言ってメロンを棚に戻した。

その素直さは意外だった。規約の精神とやらから来た主張が、一言で撤回される。マンゴーアイスをカゴに入れた田中の横顔は、どこか満足げに見えた。こいつは実は、そこまで厳密ではないのかもしれない。あるいは、規約という名目を使って、何か別のものを求めているのか。

レジに向かう道すがら、俺も店の奥へ歩いていった。特に欲しいものがあったわけではないが、この深夜のコンビニという舞台に何かを感じていた。通常の生活時間では出会わない景色。昼間の喧騒から解放された空間。そこには、日中の自分たちとは違う何かがあるような気がした。

結局、俺はホットコーヒーを手に取った。深夜だというのに、妙に温かいものが飲みたくなったのだ。レジで田中と並んで精算する時、彼は横をちらと見た。その視線は何か含みがあるように感じたが、何も言わなかった。

外に出ると、再び夜風が二人を包んだ。コンビニの温かさから一転して、冷たい空気が頬に心地よく触れた。帰路の途中、田中がぽつりと言った。「また明日も来る?」

「何か限定アイスあるの」

「いや。ただ」

返答を待つ俺に、田中は何も言わなかった。ただ前を向いて歩き続けた。

その背中を見ながら、俺も歩いた。規約なんていう形式を通じて、こいつは何かを言おうとしているのかもしれない。あるいは、単に退屈な日常に何かを加えようとしているだけなのか。それはまだ、わからなかった。

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