屋上で星を見るには、天気に恵まれなければならない。
それは当たり前のことなのに、雨の続いた一週間、私はひどく落ち着かなかった。夜、窓を打つ雨音を聞きながら、彼は今どうしているだろうと考えてしまう。会えない夜が、こんなに長く感じるものだとは思わなかった。
連絡先も知らない。名前も知らない。彼と繋がる手段は、あの屋上と、晴れた夜だけだった。
雨が上がったのは、八日目の夜だった。空気がまだ湿っているうちに、私は屋上へ駆け上がった。
彼はいた。三脚を立てながら、ふり返って言った。
「来ると思ってました」
「どうして」
「雨の間、僕もずっと落ち着かなかったので。同じかなと」
心臓が、少し跳ねた。
その夜、雲の切れ間から見えたのは、夏の大三角だった。三つの明るい星が、大きな三角形を描いている。彼はそれぞれの名前と、星までの距離を教えてくれた。同じ三角形に見えるのに、実際にはとんでもなくばらばらの場所にあるのだという。
「近くに見えても、ぜんぜん離れてるんですね」
「はい。人間も、案外そうかもしれません」
彼の言葉には、時々こうして、ふっと寂しさが混じる。
「でも」と私は言った。「離れてても、こうして同じ三角形に見えるなら、それでいいような気もします」
彼はしばらく黙って、それから小さくうなずいた。
「……そうですね。それでいいのかもしれない」
帰り際、彼がぽつりと言った。
「もし雨が続いたら、僕がいなくても、屋上に上がってもらえますか。あなたがそこにいると思えば、僕も空を見上げます。別々の場所でも、同じ夜を見てるってことにできる」
それは、私たちだけの合図のような約束だった。名前も番号も交わさない私たちの、たったひとつの繋がり方。
雨の夜が、その日から少しだけ怖くなくなった。