最後の宿題。外の世界に、居場所を作る。
僕は、考えた。仕事は在宅で、人と会わない。友達も、いない。ゼロから、どうやって。
ヒントは、意外なところにあった。商店街だ。公開収録以来、僕は、なんとなく、あの通りを歩くのが好きになっていた。声をかけてくれる、リスナーのみんながいたから。
ある日、八百屋のおじさんが、ぼやいていた。「うちの商店街、若い客が来なくてなあ。SNSとかいうの、やらなきゃいけないんだろうが、誰もできる奴がいなくて」
SNS。文章。オチの付け方。
僕の中で、何かが繋がった。
「あの……よかったら、僕、やりましょうか。商店街の、SNS」
おじさんが、目を丸くした。「狼くん、できるのか?」
「文章書くのと、面白いこと考えるのだけは、この二ヶ月で、鍛えられたので」
それから、僕は商店街の「中の人」になった。八百屋の新鮮野菜を、キョウコ直伝の毒舌ぎみのユーモアで紹介し、パン屋の新作を、しょうもないダジャレで宣伝した。投稿は、じわじわとバズった。
「狼くんの投稿、面白い」「この商店街、行ってみたい」
若い客が、少しずつ、増えていった。商店街のみんなが、僕を、頼りにしてくれるようになった。
気づけば、僕には、居場所ができていた。深夜の電波の中ではない、昼間の、生身の世界に。
番組の最終回が、近づいたある夜。僕は、キョウコに、報告のメールを送った。
「キョウコさん。宿題、できました。僕、商店街の広報の仕事、始めました。毎日、いろんな人と、喋ってます。居場所、作れました」
キョウコが、読み上げた。その声が、途中で、少し詰まった。
「……よくやったわね、狼くん」
初めて、毒舌のない、まっすぐな言葉だった。
「これで、私、安心して、卒業できるわ。あんたのことだけが、心配だったの。ずっと」
電波の向こうで、キョウコが、鼻をすする音がした。僕も、目頭が熱くなった。
あと一回。次で、この番組は、終わる。