第8話: 最後の宿題

最後の宿題。外の世界に、居場所を作る。

僕は、考えた。仕事は在宅で、人と会わない。友達も、いない。ゼロから、どうやって。

ヒントは、意外なところにあった。商店街だ。公開収録以来、僕は、なんとなく、あの通りを歩くのが好きになっていた。声をかけてくれる、リスナーのみんながいたから。

ある日、八百屋のおじさんが、ぼやいていた。「うちの商店街、若い客が来なくてなあ。SNSとかいうの、やらなきゃいけないんだろうが、誰もできる奴がいなくて」

SNS。文章。オチの付け方。

僕の中で、何かが繋がった。

「あの……よかったら、僕、やりましょうか。商店街の、SNS」

おじさんが、目を丸くした。「狼くん、できるのか?」

「文章書くのと、面白いこと考えるのだけは、この二ヶ月で、鍛えられたので」

それから、僕は商店街の「中の人」になった。八百屋の新鮮野菜を、キョウコ直伝の毒舌ぎみのユーモアで紹介し、パン屋の新作を、しょうもないダジャレで宣伝した。投稿は、じわじわとバズった。

「狼くんの投稿、面白い」「この商店街、行ってみたい」

若い客が、少しずつ、増えていった。商店街のみんなが、僕を、頼りにしてくれるようになった。

気づけば、僕には、居場所ができていた。深夜の電波の中ではない、昼間の、生身の世界に。

番組の最終回が、近づいたある夜。僕は、キョウコに、報告のメールを送った。

「キョウコさん。宿題、できました。僕、商店街の広報の仕事、始めました。毎日、いろんな人と、喋ってます。居場所、作れました」

キョウコが、読み上げた。その声が、途中で、少し詰まった。

「……よくやったわね、狼くん」

初めて、毒舌のない、まっすぐな言葉だった。

「これで、私、安心して、卒業できるわ。あんたのことだけが、心配だったの。ずっと」

電波の向こうで、キョウコが、鼻をすする音がした。僕も、目頭が熱くなった。

あと一回。次で、この番組は、終わる。

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