翌日の深夜二時。僕は満を持して、メールを送った。
「ラジオネーム、眠れぬ子羊、改め『眠らぬ狼』。昨日はよくも言ってくれましたね。今夜こそ、キョウコさんを黙らせる面白いネタを持ってきました。聞いて驚くな。僕は昨日、羊を数える代わりに、キョウコさんの毒舌を脳内再生していたら、五時間ぐっすり眠れました」
ちょっとした嫌味のつもりだった。数分後、キョウコが読み上げた。
「はい、眠らぬ狼さん。……って、あんた昨日の子羊でしょ。名前だけ強そうにしてもダメよ。中身が子羊なのはバレバレ」
いきなり見抜かれた。
「で? 私の毒舌で眠れた? あらそう。それってつまり、私の声が子守唄より効くってことね。光栄だわ。……でも、ちょっと待って」
キョウコの声のトーンが、少し変わった。
「あんた、昨日眠れなかったから今日また来たんじゃなかった? 五時間眠れたなら、なんで今夜も起きてメール送ってんのよ。矛盾してるじゃない。嘘つき狼くん」
墓穴を掘った。完全に、掘った。
「まあいいわ。狼くん、正直に言いなさい。あんた、眠れないんじゃなくて、私と喋りたくて起きてるだけでしょ」
図星すぎて、ラジオの前で顔から火が出た。
「そういうリスナー、嫌いじゃないわよ」キョウコは、ふっと笑った。「深夜ラジオなんてね、眠れない寂しい人間の、たまり場なの。私も含めてね。だから狼くん、堂々と、寂しがりなさい。それが深夜二時の、正しい過ごし方よ」
毒舌のあとの、ふとした優しさ。それが、この人の反則なところだった。
僕は、なんだかむず痒くなって、ラジオを消した。でも、口元は、勝手にゆるんでいた。
明日も、送ろう。今度こそ、キョウコを笑わせるネタを。冴えない僕の人生に、初めて、『明日やること』ができた瞬間だった。