第3話: 外さないほうがいい

「外すと、家の中を探し始めるので」

その一行を、俺は何度も読み返した。悪質ないたずらだと思いたかった。でも、それにしては具体的すぎた。

俺は震える指で返信を打った。「意味が分かりません。詳しく教えてください」

今度は返事が早かった。

「そのウォッチ、僕が最初じゃないです。前の持ち主から、同じ理由で譲られました。午前三時、心拍と歩数。最初は遠くにいるけど、外すたびにリセットされて、近くから来ます。だから、つけっぱなしにして、あの時間を『やり過ごす』のがいちばん安全です」

やり過ごす。

「それは、何なんですか」

「わかりません。ただ、歩数がゼロになる夜がある。その夜は――もう、隣にいるってことです。僕はその前に手放しました。すみません」

それきり、出品者のアカウントは消えた。退会したらしい。俺は宙ぶらりんの恐怖だけを、手首に巻いて残された。

捨てればいい。頭では分かっている。でも「外すと探し始める」の一文が、俺を縛った。つけている限り、そいつは規則正しく、歩数を数えながら来る。外したら、無秩序に、家じゅうを歩き回る。どちらがましか、答えは出なかった。

その夜、俺は明かりをつけたまま横になった。眠らなければいい。午前三時を、起きて迎えればいい。

だが、疲れは正直だった。まぶたが重くなり、意識が沈んでいく。抗えなかった。

夢の中で、俺は自分の部屋を上から見ていた。ベッドに横たわる俺。その足元に、影のような何かが立って、こちらを――俺の顔を、じっとのぞき込んでいた。

はっと目が覚めた。午前三時十四分。手首のウォッチが、静かに振動していた。

今日の歩数、六十八歩。

そして心拍の欄には、いつもの百三十の下に、小さくもう一つ、別のグラフが重なって表示されていた。

俺のものではない、心拍だった。

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