第3話: 言えなかったごめんね

次に来たのは、私と同じくらいの年頃の女の子だった。制服姿で、目を赤く泣きはらしている。

「あの、変なこと聞くんですけど」彼女はうつむいたまま言った。「なくしたものを、預かってくれる店って、ここですか」

うめさんがうなずくと、彼女はぽつぽつと話しはじめた。

喧嘩したまま、仲直りできずにいた親友がいたこと。転校が決まって、最後に「ごめんね」を言おうとしたのに、意地を張って言えなかったこと。そして、その親友が、引っ越し先で事故に遭い、もう二度と会えなくなってしまったこと。

「言いたかったんです。ごめんねって。でも、もう、伝えられない。あの言葉、ずっと、喉のところに、つっかえたままで」

私は棚を探した。胸が痛くなるような気持ちで。そして、見つけた。《あの子への、言えなかったごめんね》と書かれた、小さな箱。

うめさんはその箱を手に取り、優しく彼女に差し出した。

「これは、返すものじゃない。あんたが、ちゃんと手放すためのものだよ」
「手放す?」
「言えなかった言葉を、抱えたままでは、前に進めない。だから、ここに預けていきな。あの子に届けるのは、私たちの仕事だ」

女の子は、震える手で箱を開けた。中から、ふわりと光がこぼれた。彼女は思わず、その光に向かって、小さくつぶやいた。

「……ごめんね。ずっと、大好きだった」

光は、蛍のように宙を舞い、店の天窓から、夜空へと昇っていった。

女の子は、声をあげて泣いた。今度は、悲しいだけの涙ではなかった。

彼女が帰ったあと、私はうめさんに聞いた。「あの言葉、本当に、あの子に届くんですか」

うめさんは、夜空を見上げた。「届くさ。忘れものはね、ちゃんと、持ち主のところへ帰るんだ。たとえ、この世にいなくても」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール