秋のある夜、相談所に、見慣れない神様がやってきた。
厳めしい顔つきの、老齢の神。天界の役人だという。
「宇迦之御魂神。この相談所を、閉鎖する」
私は、耳を疑った。宇迦さんの表情も、こわばった。
「なぜ、ですか」
「天界の決まりだ。神が、人間を雇うことは、本来許されておらん。そこの人間の娘。あれが、問題だ」
役人の視線が、私に向いた。
「神々の領域に、人間を立ち入らせるなど、前代未聞。すぐに解雇し、相談所は閉鎖せよ。従わねば、宇迦、お前の神格を剥奪する」
重い沈黙が、社務所を包んだ。
宇迦さんが、静かに口を開いた。
「この娘は、たくさんの神を救いました。貧乏神に居場所を、雷神に技術を、疫病神に仲間を。人間の柔軟な発想が、僕ら神々に、どれほどの光を与えたか」
「規則は、規則だ」
そのとき、社務所の外が、騒がしくなった。
がらりと戸が開き、雷神が飛び込んできた。続いて、貧乏神、縁結びの神、疫病神、コン太たち。この相談所で、私が助けてきた神様たちが、次々と集まってきた。
「待てェ! 真希を辞めさせるなァ!」雷神が吼えた。
「そうです! 真希ちゃんは、私たちの恩人です!」縁結びの神が叫ぶ。
「私は、あの娘に、初めて居場所をもらった」疫病神が、静かに、けれど力強く言った。「あの娘を追い出すなら、私たちも、二度とこの天界の言うことは聞かない」
神々が、口々に私を庇った。役人は、たじろいだ。
「き、規則を破れば、罰が」
「規則より、大事なものがある」宇迦さんが、きっぱりと言った。「神が、人を思い、人が、神を思う。その心を失ったら、神様なんて、ただの偶像だ」
私は、胸が熱くなった。二千円のために始めたバイト。でも今は、こんなにも多くの存在に、必要とされている。
役人は、しばらく神々を見回して、ため息をついた。
「……わかった。一度、天界に持ち帰って、再検討する」
役人が去ったあと、神様たちは、わっと歓声を上げた。私は、涙をこらえるので必死だった。
でも、閉鎖の危機が、完全に去ったわけではなかった。