配達人の仕事に、少しずつ慣れてきた。満月のたびに、私はあわいの道を歩き、様々な人へ手紙を届けた。
ある満月の夜、投函口に、子どもの字で書かれた手紙があった。宛先は「ママ」。差出人の名前はなく、ただ「そら」とだけ。
手紙にはこうあった。『ママ、ぼく、げんきです。もう、ないてないよ。だから、ママもないてないで』
胸が締めつけられた。母親を亡くした子どもが、天国の母を心配して書いた手紙――そう思った。
私はあわいの道へ入った。だが、いくら歩いても、宛先の「ママ」に辿り着けない。手紙が、光らないのだ。
道の途中で、ポストの声が響いた。
「灯里さん。その手紙は、届けられません」
「どうして」
「宛先が、この世にあらぬ人ではないからです。『そら』君のお母様は――まだ、生きています」
私は混乱した。生きている人への手紙?
「では、なぜ、そら君はポストに?」
「逆なのです」ポストは静かに言った。「亡くなったのは、そら君のほう。お母様が、生きている。あの手紙は、亡き子から、生きた母への、伝言なのです」
言葉を失った。あの手紙を書いたのは、亡くなった子ども自身。母を心配して、天国から。
「本来、死者から生者へは、手紙を送れません。ですが、そら君の想いがあまりに強くて、ポストに紛れ込んだのでしょう」
「じゃあ、どうすれば」
「例外的に、届けることはできます。ただし、生者に死者の手紙を渡すのは、危険を伴います。相手が、あわいの道に、引き込まれかねない」
生きた母親に、亡き子の手紙を渡す。それは、母をあの世へ誘うことにもなりかねない、と。
私は迷った。だが、そら君の想いを思うと、届けずにはいられなかった。母を泣かせたくない。もう泣かないでと願う、幼い心。
「私が、慎重に届けます。母親を、道に引き込まないように」
ポストは、しばらく沈黙してから、言った。
「わかりました。ですが、くれぐれも気をつけて。母の悲しみは、深い」