第5話: 最初の依頼

次の満月まで、私は祖母の家で暮らすことにした。仕事は在宅でできるものに切り替え、この町に留まった。配達人として。

満月の夜、藍色のポストの前に立つと、一通の手紙が投函口から顔を出していた。誰かが、亡き人への手紙を入れていったのだ。

差出人は、町のパン屋の若い店主だった。宛先は、一年前に亡くなった父親。

手紙には、こう書かれていた。『親父、店を継いだよ。でも、あの日、喧嘩別れしたまま逝かせてしまって、ごめん』

私は手紙を胸に抱え、あわいの道へ入った。

道を歩くと、光る手紙が私を導いた。たどり着いたのは、小さなパン屋の前。エプロンをつけた初老の男性が、店先で佇んでいた。

「あの、お手紙です。息子さんから」

男性は驚いた顔をして、手紙を受け取った。読み進めるうちに、その目に涙が滲んでいく。

「馬鹿な息子だ」彼は呟いた。「喧嘩なんて、とっくに忘れてたのに。あいつ、ずっと気にしてたのか」

「返事を、伝えましょうか。私が、息子さんに」

男性は少し考えて、静かに言った。

「――伝えてくれ。『気にするな。店を継いでくれて、ありがとう。お前のパンは、俺のより旨い』ってな」

私は頷いた。胸が熱くなった。これが、配達人の仕事。想いを、繋ぐこと。

月が欠けはじめる前に、私は道を戻った。現実に戻り、翌朝、パン屋を訪ねた。

「昨夜、あなたのお父様に、お手紙を届けました」

若い店主は、最初は訝しんだ。だが、私が父親の言葉を伝えると――「お前のパンは、俺のより旨い」――彼は、その場で泣き崩れた。

「それ、親父の口癖だったんです。俺のパンを食うたびに、悔しそうに、そう言ってた」

本物だと、彼は悟ったのだろう。

「ありがとう。ありがとうございます」

私は、この仕事を継いでよかったと、心から思った。

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