配達人になると決めた瞬間、ポストの投函口が、大きく開いた。人が入れるほどの、暗い口を開けて。
「さあ、中へ。これが、あわいの道の入り口です」
私は震える手で、ポストの縁を掴んだ。深呼吸をして、暗闇の中へ足を踏み入れる。
落ちる、と思った瞬間、足の裏に地面の感触があった。
目の前に広がっていたのは、月明かりに照らされた、一本の細い道だった。両側には、無数の白い花が咲いている。空には、いつもの何倍も大きな満月。空気は澄んでいて、どこか懐かしい匂いがした。
「ここが、あわいの道」ポストの声が、どこからか響いた。「この道を進めば、亡き人に会えます。ただし、決して立ち止まらず、脇道に逸れず、まっすぐに」
私は歩き出した。手には、自分で書いた祖母への手紙。それが、道しるべのように、ほのかに光っていた。
道の途中、何人もの人影とすれ違った。皆、半透明で、こちらを見ようともしない。ただ、静かに歩いている。彼らも、誰かに会いに行くのだろうか。
しばらく歩くと、道の先に、小さな灯りが見えた。近づくと、それは縁側のある古い家だった。祖母の、昔の家だ。私が子どもの頃、夏休みに遊びに来た、あの家。
縁側に、人が座っていた。白い割烹着。丸めた背中。
「おばあちゃん……?」
その人が、ゆっくりと振り返った。祖母だった。生前と変わらない、優しい笑顔で。
「あら、灯里。よく来たね」
涙が、こぼれた。会いたかった。もう会えないと思っていた祖母に、また会えた。
「おばあちゃん、私、手紙を」
震える手で、光る手紙を差し出す。祖母はそれを受け取り、ゆっくりと開いて、読みはじめた。
読み終えると、祖母は目を細めて、優しく言った。
「ありがとう。ちゃんと、届いたよ」