バイト三日目。私はまだ辞めていない。歴代最長記録を、更新中らしい。
その夜の来客は、みすぼらしい着物を着た、痩せこけた中年男性だった。顔色が悪く、なんとも言えない貧乏くささが漂っている。
「相談……なんですが」
「はい、どうぞ。お名前は」
「私は……貧乏神です」
私はペンを落とした。貧乏神。実在したのか。
「あの、貧乏神様が、何のご相談で」
貧乏神は、深いため息をついた。
「実はですね……取り憑いていた家から、追い出されそうなんです」
「追い出される?」
「その家、最近やたら景気が良くなっちゃって。福の神が乗り込んできて、私の居場所がないんですよ。もう、肩身が狭くて」
貧乏神の悩みは、まさかのリストラ問題だった。
「新しい、取り憑き先を探したいんですが……最近の若者は、みんな節約上手で。私が入り込む隙がなくて」
世知辛い話だった。貧乏神も、時代の変化に苦しんでいるらしい。
そこへ宇迦さんが現れた。
「ああ、貧乏神さん。求職ですか」
「宇迦様……もう、私なんて、必要とされてないんでしょうか」
「そんなことないですよ」宇迦さんは優しく言った。「貧乏を知る者だけが、豊かさの本当の意味を教えられる。あなたの役目は、大事なんです」
貧乏神の目に、光が戻った。
「そ、そうでしょうか」
「真希さん、ちょっと相談。この方に合う、取り憑き先の候補、考えてみて」
私は考えた。貧乏を教えることで、人を成長させる。それなら――
「あの、お金を稼いだら全部使っちゃう、浪費癖のある人とか、どうですか。少し痛い目を見たほうが、その人のためになるかも」
貧乏神が、ぱっと顔を輝かせた。
「それだ! 浪費家! 私の腕の見せどころです!」
貧乏神は、生き生きと帰っていった。
宇迦さんが、感心したように私を見た。
「真希さん、筋がいいね。この仕事、向いてるかも」
複雑な褒め言葉に、私は苦笑いするしかなかった。