第1話: 満月のポスト

祖母が亡くなって、三ヶ月が経った。

私、灯里は祖母の古い家を片づけるために、久しぶりにこの町へ戻ってきた。両親はもう遠方に住んでいて、家のことは私に任された。

満月の夜だった。片づけに疲れて外に出ると、家の前の細い路地に、見慣れないものがあった。

古い、丸い形の郵便ポスト。赤ではなく、深い藍色をしている。月の光を浴びて、うっすらと光っていた。昨日まで、こんなものはなかったはずだ。

近づくと、ポストの投函口の上に、小さな金色の文字が刻まれていた。

『届かぬ想いを、あの人へ』

不思議に思って、私はポストの周りを一周した。裏側には、こう書かれていた。

『満月の夜のみ開局。宛先は、この世にあらぬ人に限る』

ぞくりとした。この世にあらぬ人。つまり、亡くなった人へ、手紙を届けるということか。

馬鹿げている。そう思いながらも、私はふと、祖母のことを考えた。生前、伝えられなかった「ありがとう」。忙しさを言い訳に、会いに来られなかった後悔。

気づけば、私は家に戻り、便箋にペンを走らせていた。おばあちゃんへ、と。短い、けれど心を込めた手紙を書いた。

ポストの前に戻り、投函口に手紙を入れた。かたん、と音がした。

その瞬間、ポストが淡く光り、内側から声がした。

「確かに、お預かりしました」

私は飛び上がった。ポストが、喋った。

「配達人が、必要なのです」と、声は続けた。「あなた、亡き人へ手紙を届ける仕事に、興味はありませんか」

月が、雲間から顔を出した。藍色のポストが、私を待つように、静かに佇んでいた。

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