第7話: カウントダウン

取り壊しまで、あと三日。

弁当屋の黒板ならぬ、四階の教室の黒板には、日ごとに数字が減っていった。子どもたちが数えているのは、取り壊しまでの残り日数だった。

『あと3にち』

俺は毎晩、見回りを続けた。子どもたちは、もうすっかり俺に懐いていた。五階を通るたびに、彼らは寄ってきて、俺の袖を掴む。冷たい手だった。でも、その冷たさに、俺は不思議と恐怖を感じなくなっていた。

哀れだったのだ。二十年間、暗いビルの中で、出口を探し続けてきた子どもたち。誰にも見つけてもらえず、鎮められることもなく。

「なあ」俺は子どもたちに訊いた。「お前たち、どこに行きたいんだ」

一番小さな子が、俺を見上げた。

「おうち。おかあさんの、いるとこ」

胸が締めつけられた。二十年経っても、彼らはまだ、母親の待つ家に帰りたがっている。

「取り壊されたら、帰れるのか」

子どもは首を横に振った。

「ビルがこわれたら、わたしたち、きえちゃう。おうちにも、いけなくなる」

消える。成仏ではなく、ただ消滅する。それがこの子たちの恐れているものだった。だから必死に、取り壊しの前に出口を探していたのだ。

「じゃあ、どうすれば」

子どもは、俺の手を強く握った。

「おにいさんが、つれてって。そとに。ひとりずつでいいから」

連れて出る。それができるなら。だが、俺は思い出した。ノートに書かれた前任者の言葉、店主の話。逃げ出せなくなる仕組み。

この子たちを外に連れ出すには、代償がいるのではないか。俺自身が、ここに残るという代償が。

黒板の数字が、また一つ減った。

『あと2にち』

俺は決断を迫られていた。子どもたちを救うか、自分が助かるか。時計の針は、止まってはくれなかった。

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