第3話 指を指す
五回目の映り込みで、気づいた。
形が、何かを指さしている。
腕が伸びて、指先が——部屋の一点を向いていた。それまでの四回の映り込みでは、その存在に気づかなかった。サキは何度も動画を巻き戻し、スローモーションで再生した。確かに、0.3秒のわずかな間に、人影のような形が腕を伸ばしている。指を立てて、何かを指しているのだ。
その方向は、クローゼットだった。
サキはしばらくクローゼットを見つめた。普通のクローゼットだ。白いドアに、銀色の取っ手。この部屋に越してきたとき、前の住人が置いていった古い段ボールが一箱あって、そのままにしていた。引っ越しから三ヶ月、その段ボールのことはすっかり忘れていた。
心臓が早くなった。
なぜだか、その段ボールを見ることが怖かった。動画に映った何かが、わざわざこちらの注意を引こうとしているのではないか。そんな考えが頭をよぎった。サキは何度か深呼吸をした。馬鹿らしい。そんなことがあるわけない。ただの映像のノイズか、何かの偶然だ。自分の想像が勝手に形を作っているだけ。
だが、指は確かに何かを指していた。
クローゼットを開けた。古い段ボール箱が、そこにはあった。埃をかぶっていて、開けるのが少し躊躇われる。サキは両手で抱え、ベッドの上に置いた。テープで留められた箱を、慎重に開ける。
中には、古い写真アルバムが入っていた。
革張りの表紙は、色褪せている。前の住人のものだろう。捨てていったのか、忘れていったのか。所有者の名前を確認しようと、アルバムを裏返したが、何も書かれていなかった。
ページをめくると、どこかで見た部屋の写真があった。
この部屋だ。でも、知らない人が写っている。写真は古く、色も褪色していた。若い女性が、今サキが座っているベッドの上に座っている。笑顔で、何かを指しているように見える。その指の先は、カメラを持つ人、つまり撮影者の方を向いていた。ページをめくると、同じ女性の写真がいくつもあった。同じベッドで、同じ部屋で、何度も何度も撮られている。
最後のページに、日付があった。七年前。
サキの手が震えた。
七年前。その女性は、今どこにいるのだろう。なぜこのアルバムを置いていったのか。そして、なぜ動画の中の影は、このアルバムを指していたのか。
窓の外は、もう夕暮れ近くなっていた。
サキは、もう一度、最後のページの写真を見つめた。女性は笑っていた。だが、その笑顔は、どこか不安そうに見えた。
──(第4話へつづく)