三週間、同じバス停で彼女は雨に濡れていた。
折り畳み傘の存在を知らないのか、それとも濡れることが好きなのか。毎朝七時四十二分、僕の二つ前に並んで、きっちり濡れている。
傘を貸せばいい。簡単な話だ。
でも三週間、できていない。
理由は単純で、彼女が傘を必要としていないように見えるからだ。濡れながらも堂々としている。雨粒が頬を伝っても、眉一つ動かさない。むしろ、それが彼女の日常の一部であるような顔をしている。
余計なお世話かもしれない、と思っていた。
二十二日目の朝、バスが来なかった。遅延、十五分。
僕たちは同じ屋根の下に残された。狭い。
彼女が先に口を開いた。
「傘、貸してくれないんですね」
振り返ると、少し笑っていた。
「……気づいてたんですか」
「毎日迷ってる顔してましたよ」
「なんで断ると思ったんですか」と彼女は聞いた。
「濡れてても気にしてないように見えたから」
「気にしてましたよ」と彼女は言った。「めちゃくちゃ寒かったです、毎日」
バスが来た。乗り込む前に、僕は傘を差し出した。三週間遅れで。
「今更ですね」と彼女は笑った。受け取りながら。
「返さなくていいですか」
「返しに来てください」
それだけ言って、彼女は先に乗り込んだ。
翌朝も雨だった。彼女は傘を持っていなかった。
僕のを、家に置いてきたらしい。