湊は、光に包まれながら、ゴンドラを降りた。
三年間、一歩も動けなかった乗り場から、彼はゆっくりと、地上を踏みしめた。
「不思議です」湊は、自分の手を見つめた。「体が、軽い」
遊園地の空が、東のほうから、白み始めていた。夜明けが、近い。
「湊さんは、これから、どうなるんですか」莉子は聞いた。
「わかりません」湊は微笑んだ。「でも、もう、ここに留まる理由はなくなりました。行くべきところへ、行けると思います」
莉子の目から、涙がこぼれた。せっかく、心を通わせられたのに。別れは、あまりにも早かった。
「寂しいです」莉子は、正直に言った。
「僕もです」湊もうなずいた。「でも、莉子さん。あなたのおかげで、僕は、自分の人生を、受け入れられました。短かったけど、僕の人生は、確かに、あった。それを、あなたが、教えてくれた」
夜明けの光が、遊園地を、少しずつ照らしていく。観覧車の電飾が、一つ、また一つと、消えていった。
「これから、この観覧車は」
「もう、動かないと思います」湊は言った。「僕が、いなくなるから。でも、それでいいんです。迷っている人は、いつか、自分の力で、答えを見つけられる。あなたが、そうだったように」
湊の姿が、光の中で、少しずつ、薄れていく。
「莉子さん。あなたの人生は、あなただけのものです。選ばなかった道を悔やまず、選んだ道を、まぶしく生きてください」
「はい」莉子は、涙をこらえて、笑った。「湊さんも……どうか、幸せに」
湊は、最後に、とびきり優しく微笑んだ。
「いってきます」
そして、朝日の中に、溶けるように消えていった。
観覧車が、ゆっくりと、止まった。電飾がすべて消え、また、錆びた廃墟の姿に戻る。
莉子は、しばらく、その場に立っていた。頬を伝う涙は、悲しみだけではなかった。
家に帰る道すがら、莉子は、朝日に照らされた街を見渡した。
選ばなかった人生は、もう、悔やまない。
この、選んだ道を――誰かにとってのまぶしい人生を、精一杯、生きていこう。
丘の上の観覧車は、もう二度と動かない。けれど、莉子の胸の中では、あの夜の光が、いつまでも、優しく回り続けていた。