第7話: 来ない火曜

その火曜、みなと橋の角に、冬野さんはいなかった。

最初は、少し遅れているのだと思った。私は角を三周した。四周した。街灯の下は、空っぽのままだった。

翌週も、その次の週も、冬野さんは現れなかった。

電話をかけた。出なかった。メッセージを送った。既読はつかなかった。

何かあったんじゃないか。悪い想像ばかりが、夜の道に散らばった。事故、病気、あるいは——ただ、私に飽きただけかもしれない。夜だけの関係なんて、そんなものかもしれない。

仕事にならなかった。私はハンドルを握りながら、みなと橋の角ばかり見ていた。誰も立っていないその場所が、こんなにも寂しいものだとは思わなかった。

三週間目の夜、私は灯台まで、ひとりで走った。

誰も乗っていない後部座席が、やけに広く感じた。灯台の下に立って、白い光が回るのを見た。冬野さんはいつも、この光を三回数えるくらいの間、ここに立っていた。妹さんに、報告するために。

「冬野さん」

声に出して呼んでみた。海の音にかき消されて、返事はなかった。

そのとき、はっと気づいた。私は、冬野さんの家も、勤め先の出版社の名前も、知らない。夜の街で交わした言葉の断片しか、持っていない。連絡が取れなくなれば、それきりだった。私たちは、そういう関係だった。

名前を詮索しないのが、夜のタクシーの礼儀。その礼儀が、こんなときに私を縛った。

海に向かって、私はもう一度呼んだ。

「約束、まだですよ。本ができたら、いちばんに読ませてくれるって」

光が回った。一回、二回、三回。

それでも、暗い海はただ黙っていた。

私は、初めて夜を怖いと思った。昼よりずっと、夜のほうが、人を簡単に飲み込んでしまう。

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