第2話: 吸血鬼の弱点

自称・吸血鬼の夜宮さんは、真面目に困った人だった。

「三上よ」と彼は、マントを翻して言う。「我は五百年、この夜を彷徨ってきた。しかし、ひとつだけ、克服できぬ弱点がある」
「にんにく、ですか」
「いや。……つり銭の計算だ」
「え?」
「暗算が、どうしてもできぬのだ。五百歳にして、割り勘が苦手なのだ」

吸血鬼の弱点が、割り勘。

その夜、同盟の三人はまた「究極のドリンクバー配合」の実験をしていて、その材料費(という名の追加ドリンクバー料金)を割り勘にする話になったのだが、夜宮さんは一人だけ、頑なに計算を拒否した。

「三人で、ドリンクバー三杯ぶんだから、一人一杯ぶんでしょう」と僕が言うと、夜宮さんは首を振った。
「待て。我はトマトジュースを追加した。スミレ殿はメロンソーダを二杯。黒田殿は謎の配合を五杯。これを公平に割るとなると、複雑な数式が必要になる」
「いや、ドリンクバーは飲み放題なんで、何杯飲んでも同じ料金です」

夜宮さんは、雷に打たれたように固まった。
「……なんと。飲み放題。そういう、魔術があったのか」
「五百年、気づかなかったんですか」
「我の生きた時代には、ドリンクバーなど、なかったのでな」

スミレおばあちゃんが、げらげら笑った。「あんた、ほんとに世間知らずだねえ」
黒田さんが、しみじみうなずいた。「割り勘のできない吸血鬼か。人間界で、さぞ苦労したろうな」
「うむ。何度、コンビニのレジで、パニックになったことか」

吸血鬼なのに、コンビニで買い物してるんだ。

結局、その夜は、僕が電卓で計算してあげた。夜宮さんは、僕の手のひらの電卓を、まるで魔法の道具を見るような目で眺めていた。

「三上よ。きみは、この魔道具を使いこなすのだな」
「電卓ですよ、電卓」
「見事だ。きみを、我が眷属に加えたい」
「遠慮します」

吸血鬼の弟子は、時給が出ないので、丁重にお断りした。

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