深夜のファミレスで働き始めて、三日目のことだった。
僕、大学二年の三上は、時給がいいという理由だけで、24時間営業のファミレス「サニーテーブル」の深夜シフトに入った。深夜なんて、客も少なくて楽だろう。そう思っていた。
甘かった。
午前三時。それは、この店にとっての「魔の時間」だった。
まず、いちばん奥の四人席に陣取るのが、スーツ姿の中年男・黒田さん。会社の役職者らしいが、なぜか毎晩ここにいる。ドリンクバーだけで六時間ねばる猛者だ。
その向かいの席には、常に真っ黒なマントを羽織った青年・夜宮さん。自称「五百歳の吸血鬼」。頼むのはいつもトマトジュース。「血の代わりだ」と真顔で言う。
窓際には、大量の推しグッズを広げる、六十代のおばあちゃん・スミレさん。地下アイドルの熱狂的ファンで、深夜にSNSで「沼」の情報収集をしているらしい。
「新入りくん」と、黒田さんが僕を呼んだ。「きみ、名は」
「み、三上です」
「三上くん。よく聞きたまえ。我々は『深夜ファミレス同盟』だ」
「同盟……?」
「そう。午前三時に、この店に集う者たちの、崇高な結社である」
何が崇高なのか、まったくわからない。
「本日の議題は」と黒田さんが立ち上がった。「ドリンクバーの、最強配合の探求である!」
「議題、それですか」
「コーラとカルピスとメロンソーダを、黄金比で混ぜる。これぞ深夜の錬金術。三上くん、きみも参加したまえ」
吸血鬼の夜宮さんが、うなずいた。「五百年生きてきたが、まだ究極の配合には出会っていない」
スミレおばあちゃんも、拳を握った。「あたしの推しに捧げる、一杯を作るのさ」
店長は、賄いを食べながら「好きにやらせとけ」と言うだけだった。
僕は、深いため息をついた。これから毎晩、この人たちの相手をするのか。
午前三時のファミレスは、世界でいちばん、平和で、くだらない戦場だった。