気がつくと、私は古い和室に座っていた。
畳はすり切れ、着物のような服を着せられている。手も足も、思うように動かない。ただ、うつむいた姿勢のまま、そこにいることしかできない。
目の前には、窓がある。窓の外には、夜の街や、公園や、いろいろな風景が、めまぐるしく移り変わっていく。それが、どこかの誰かがカメラで撮っている「今この瞬間」の景色なのだと、私にはもうわかっていた。
私は、三十七枚目になったのだ。
誰かのフィルムに写り込み、少しずつその人へ近づき、いつか「かわり」に、その人をここへ引きずり込む。そうやって、私は自由になれる。祖母がそうしなかったように、私は、そうするしかない。
和室の女は――もう、いない。あの人はきっと、遠い昔、次の誰かを見つけて、ここから去ったのだ。だから今度は、私の番だ。
窓の外の景色が、ふと止まった。
誰かが、シャッターを切ったのだ。
若い女性だった。古いフィルムカメラを構えて、嬉しそうに川べりを撮っている。黒い、ずっしりと重そうなカメラ。見覚えがある。祖母のカメラだ。
きっと、私の遺品を、また誰かが見つけたのだろう。桐の箱を開け、布を解き、フィルムを詰めてしまったのだ。祖母のときも、私のときも、そうだったように。
私は、うつむいたまま、その人を見つめる。
どうか、三十七枚目を、光に晒して消してください。どうか、私と、目を合わせないで。
そう祈りながら――けれど心のどこかで、早く、私を見つめて、と願っている自分もいる。あなたが私を見てくれれば、私はここから出られる。あなたと、かわれる。
窓の外で、女性がこちらへレンズを向けた。
シャッターの音が、ガシャン、と鳴る。
その一枚が、三十六枚目。
次の一枚が――私の写る、三十七枚目になる。
私は、ゆっくりと顔を上げ、まだ見ぬあなたのほうへ、微笑みかける。畳の目、ひとマスぶん。あなたのほうへ、にじり寄りながら。