怖くて、フィルムはもう詰めていない。カメラは布に包んで、押し入れの奥へしまった。
それでも、あの女性のことが頭から離れなかった。手がかりは、このカメラの持ち主だった祖母にあるはずだ。私は実家に戻り、祖母の遺品をもう一度あさった。
古いアルバムの束の下から、日記帳が出てきた。祖母の若い頃の、几帳面な字で埋まった手帳だ。
ページをめくるうち、あるくだりで手が止まった。
『駅前の写真館。あの人の勧めで、記念に一枚撮ってもらう。三十六枚撮りのはずが、三十七枚目まで写るからと、店主は言った。おまけの一枚。よく写るからと』
祖母も、あの店で写真を撮っていた。三十七枚目の話をされている。
さらにページを繰ると、別の日付にこう書かれていた。
『恐ろしいことを聞いた。写真館の三十七枚目には、決して人を写してはいけないという。その一枚に写った者は、いつか和室の女に「かわり」に連れていかれると。だから、店主はいつも三十七枚目を空で撮り、光に晒して消してしまうのだと』
私は血の気が引いた。
私は、三十七枚目を、消していない。二枚とも、大事に手元に取ってある。
最後のページには、震えた字で、こう記されていた。
『あのカメラは、写真館から譲り受けたもの。私はもう、二度とフィルムを詰めない。三十七枚目を撮らないと決めた。この家に、あの女を招いてはいけない。誰かがこのカメラを見つけても、決してフィルムを入れてはならない』
祖母が、あのカメラを桐の箱の奥に、何重にも布で包んで封じていた理由が、ようやくわかった。
封じられていたものを、私は開けてしまったのだ。
押し入れの方から、かすかに、ガシャン、という重たいシャッターの音が聞こえた気がした。カメラは、しまったはずなのに。