第9話: 三十八枚目

三十八枚目。

その意味を、私はしばらく理解できなかった。三十六枚撮りに、おまけの三十七枚目。それより、さらに一枚。

祖母の日記を、私はもう一度、隅々まで読み返した。破り取られたページがあることに、初めて気づいた。ノドの部分に、切り取られた紙の残りがわずかに見えた。

その破れ目の裏、次のページに、インクが裏写りしていた。逆さまの文字を、鏡に映して読んだ。

『女を消しても、終わりではない。女に一度でも見つめられた者は、次に自分がカメラを構えたとき、三十八枚目として、女の側に写り込む。今度は、追う側ではなく、追われる者として。私が三十七枚目を見つめてしまったように』

つまり、祖母もかつて、女に見つめられていた。だから、二度とフィルムを詰めなかった。カメラを封じた。自分が「三十八枚目」になる日を、恐れて。

女を追い払ったと思っていた。でも違う。私はもう、彼女に見つめられてしまった。あの燃える写真の中で。フィルムを感光させたとき、背後で。何度も、はっきりと、目を合わせてしまった。

もう二度と、私はカメラを構えてはいけない。スマホでさえも。レンズを覗いた瞬間、私は三十八枚目になる。追う女ではなく、和室に座らされ、次の誰かを待つ側になる。

私はすべてのカメラを、家から遠ざけた。スマホのカメラアプリを消し、鏡さえ布で覆った。レンズという、こちらとあちらを繋ぐ「窓」を、ひとつ残らず塞いだ。

そうして、数日が、無事に過ぎた。

安心しかけた、ある夜。私は、うっかりしていた。

夜道を歩いていて、目の前を、防犯カメラが捉えていることに、気づかなかったのだ。ぼんやりと赤いランプの光る、街角のレンズ。それが、私を撮っていた。

その瞬間、足が、動かなくなった。

アスファルトが、すっと畳の感触に変わった。あたりに、かびた着物の匂いが立ちこめた。私の視界の「窓の外」に、見慣れた夜の街が、ゆっくりと遠ざかっていくのが見えた。

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