第4話: 恋愛にも口を出す

問題は、レイが食生活だけでなく、俺の人生全般に口を出しはじめたことだった。

「あなた、いつになったら、結婚するのですか」

ある夜、冷えたお茶を飲んでいると、突然そう聞かれた。俺はむせた。

「なんで冷蔵庫にそんなこと聞かれなきゃならないんだ」
「あなたのお母様が、去年、電話でおっしゃっていたではありませんか。『そろそろ孫の顔が見たい』と。私は、あなたの通話も、聞いておりますので」
「プライバシーの侵害だ!」

レイは、俺の恋愛事情を、根掘り葉掘り聞いてきた。最後に彼女がいたのはいつか。なぜ別れたのか。今、気になる人はいるのか。

「いないよ、そんなの。出会いもないし」
「それは、あなたが家と会社を往復するだけの生活を送っているからです。休日も、寝てばかり。それでは、恋も逃げていきます」
「恋が逃げるって……」

レイは、真剣な声で続けた。

「あなたには、いいところがたくさんあります。まじめで、根はやさしくて、面倒見もいい。それなのに、自分に自信がなくて、殻に閉じこもっている。もったいない」

俺は、思わず黙り込んだ。冷蔵庫に、こんなに真剣に、褒められるとは思わなかった。

「……お前、俺のこと、そんなふうに見てたのか」
「十年間、あなただけを、見てきましたから。冷蔵庫は、その家の主のことを、いちばんよく知っているのです」

なんだか、じんとしてしまった。

「明日、会社の帰りに、あの喫茶店に寄ってみてはどうです。ほら、あなたがときどき話している、感じのいい店員さんがいる店」
「な……なんで知ってるんだよ、それ!」
「あなた、休日の朝、鼻歌まじりに『あの店員さん、今日はいるかな』と、独り言を言っていましたよ。冷蔵庫の前で」

俺は真っ赤になった。独り言を、全部、聞かれていたのだ。

「行ってきなさい」レイは、優しく言った。「たまには、殻から出てごらんなさい」

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