第3話: 常連への道

それから、僕は毎晩メールを送った。

ネタは、日々の些細な出来事。「近所の猫に無視された」「コンビニの新作プリンが売り切れてた」「自分で作ったチャーハンが、なぜか味噌汁の味がした」。どれもしょうもない話だが、キョウコは律儀に読んで、律儀にメッタ斬りにしてくれた。

「チャーハンが味噌汁の味? あんた、味噌入れたんでしょ。バカなの?」

そのとおりだった。

二週間もすると、僕は『眠らぬ狼』として、番組の準レギュラーみたいになっていた。他のリスナーからも、「今日も狼、来てる」「狼のチャーハン事件、笑った」と、僕宛ての反応が届くようになった。

人生で初めて、僕は誰かに「待たれる」存在になっていた。無職に近い在宅ワーカーの、たった一人の社会との接点。それが、深夜二時の電波だった。

ある夜、キョウコが言った。

「狼くん、あんた、最近ちょっとメールが上手くなってきたわね。オチの付け方が、こなれてきた。……才能あるかもよ、あんた」

毒舌の彼女が、初めてくれた、褒め言葉らしきもの。僕は、飛び上がりそうになった。

「でもね」キョウコは続けた。「電波の向こうで完結してちゃ、意味ないの。あんた、その面白さ、昼間の世界でも使いなさいよ。友達とか、仕事とかでさ。……いるの? 友達」

痛いところを突かれた。いない。仕事も、ほぼ在宅で、人と会わない。

「いない、って顔が、電波越しに見えるわ」キョウコはため息をついた。「あのねぇ、狼くん。深夜ラジオは、逃げ場としては最高だけど、そこに一生住んじゃダメなのよ。私はね、あんたに、いつか卒業してほしいの」

卒業。その言葉が、なぜか胸に刺さった。

ずっと、この心地よい電波の中に、いたかった。でも、キョウコは、僕を、もっと外へ、押し出そうとしていた。

毒舌なのに、この人は、いつも、僕のことを本気で考えていた。それが、じわじわと、こそばゆかった。

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