気味は悪かったが、私はまたフィルムを詰めた。
一枚だけの怪異なら、きっと偶然だ。もう一度撮って、何ごともなく三十六枚で終われば、それで安心できる。そう自分に言い聞かせた。
二本目は、意識して人のいない場所ばかり撮った。早朝の公園、無人の駐車場、閉店したシャッター街。誰も、何も、余計なものが写り込まないように。
三十六枚を撮り終え、また同じ写真店に持っていった。
三日後。喫茶店で、私は震える指で封筒を開けた。
公園、駐車場、シャッター街。狙いどおり、無人の風景が並んでいた。ほっとしながら、最後の一枚をめくる。
三十七枚目が、あった。
また、あの女性だった。同じ和室。同じ、うつむいた姿。けれど――今度は、少しだけ違った。
前回よりも、女性がわずかにこちらへ近づいていた。畳の目にして、ひとマスぶんほど。そして、うつむいていた顔が、ほんの少しだけ上がりかけていた。あごの線が、前より見えている。
そして、窓の外。今度そこに写っていたのは、私が二本目で撮った、あの無人の公園だった。
つまり、この女性は、私が今いる場所を、いつも「窓の外」に映している。私の撮る風景を、あの和室の窓から、ずっと見ているということだろうか。
私は写真店に電話した。あの店主に、もう一度確かめたかった。
コール音が長く続き、やがて年配の女性が出た。
「はい、もしもし」
「あの、写真店の店主さんは」
「主人は……先月、亡くなりまして」
頭が真っ白になった。私は先週、確かにあの店で、店主と話をした。フィルムを渡し、三十七枚目について話した。
「先月、って……そんな。私、先週お店で……」
「うちはもう、二週間前に店を閉めたんですよ。どちらのお店とお間違えでは」
受話器を握ったまま、私は動けなかった。
では、私はいったい、誰にフィルムを渡していたのだろう。