第1話: 祖母のカメラ

祖母の遺品整理をしていて、そのカメラを見つけた。

押し入れの奥、桐の箱の底に、古い布に包まれて眠っていた。黒い金属の、ずっしりと重いフィルムカメラ。父も母も見覚えがないと言ったが、私はなぜか、それを手放したくなかった。

私は写真が趣味だ。といっても普段はスマホばかりで、フィルムなんて触ったこともない。それでも、その古いカメラには、抗いがたい引力があった。

ネットで調べて、三十六枚撮りのフィルムを買い、詰め方を覚えた。シャッターを切ると、ガシャン、という重たい音がする。デジタルの軽い電子音とは違う、何かを刻みつけるような手応えだった。

最初のフィルムは、近所の風景を撮って回った。夕暮れの川べり、錆びた鉄橋、猫のいる路地。三十六枚を撮り終えるのに一週間かかった。

現像に出したのは、駅前の古びた写真店だった。「フィルム、久しぶりですねえ」と、白髪の店主が嬉しそうに受け取ってくれた。

三日後、仕上がった写真を受け取った。喫茶店に入って、一枚ずつめくっていく。川べり、鉄橋、猫。自分で撮ったものが、ざらついた質感で並んでいる。悪くない。むしろ、いい。

最後の一枚をめくったとき、指が止まった。

三十六枚撮りのはずなのに、そこには三十七枚目があった。

写っていたのは、見知らぬ女性だった。うつむき加減で、こちらに顔の上半分は見えない。古い和室のような場所に、ぽつんと座っている。私が撮った覚えは、まったくない。そんな場所にも、行っていない。

店の焼き増しミスだろう、と最初は思った。誰か他の客の写真が、紛れ込んだのだ。そう考えて、私はその一枚を封筒の奥にしまった。

でも、家に帰って写真を並べ直したとき、気づいてしまった。

その和室の窓の外に、私がさっき撮った、あの鉄橋が写っていたのだ。

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