フリマアプリで、スマートウォッチを三千円で買った。
定価の五分の一。傷ひとつない美品で、出品者の評価も悪くなかった。「使わなくなったので」というよくある説明文。届いた箱には、充電ケーブルと、なぜか使いかけの絆創膏が一枚まぎれていた。気味が悪いので捨てた。
俺は一人暮らしの三十二歳。運動不足を気にして、睡眠と心拍を記録できるやつが欲しかった。手首に巻くと、ひんやりして少し重い。アプリと連携させ、その夜からログを取りはじめた。
翌朝、スマホで睡眠データを開いて、俺は首をかしげた。
睡眠時間、六時間半。悪くない。だが、心拍のグラフがおかしかった。午前三時ちょうど、俺の心拍が一分間だけ、跳ね上がっていた。安静時なら五十台のはずが、その一分だけ、百三十。全力疾走したときの数字だ。
悪夢でも見たか。そう思って、その日は忘れた。
次の夜も、同じだった。午前三時、一分間だけ、百三十。まるでその時間に、俺が誰かに追いかけられているみたいに。
三日目、俺は寝る前にスマホの録音アプリも回しておいた。心拍が上がる理由を、音で確かめたかった。
翌朝、再生する。ほとんどが俺の寝息。エアコンの音。そして午前三時――寝息が、ぴたりと止まった。
無音。十秒。二十秒。
そして、俺の寝息とは別の場所から、ゆっくりと、息を吸う音がした。
俺は録音を止めた。手首の腕時計が、今、また少しだけ重くなった気がした。データはこう言っていた。午前三時、心拍百三十。
だが俺は、その時間、確かに眠っていたのだ。