第1話: ラジオネーム・眠れぬ子羊

僕、三雲(みくも)、二十九歳。無職ではないが、それに近い在宅ワーカー。彼女いない歴、年齢と同じ。特技は、夜眠れないこと。

その夜も、僕は天井を睨みながら、深夜ラジオを聴いていた。地元のローカル局、午前二時からの『ミッドナイト・キョウコ』。パーソナリティは、キョウコという女性DJ。声は色っぽいが、口はミサイル並みに攻撃的で、リスナーの投稿を容赦なくメッタ斬りにすることで、深夜界隈では有名だった。

眠れなさすぎて、僕は魔が差した。番組にメールを送ってみたのだ。

「ラジオネーム、眠れぬ子羊。三日連続で眠れません。羊を数えたら二千三百匹まで数えました。どうすれば眠れますか」

送信して、五分後。まさか読まれるとは思っていなかった。

「はい、次のメール。ラジオネーム、眠れぬ子羊さん」

心臓が跳ねた。キョウコの声が、僕のメールを読み上げる。

「羊を二千三百匹? あのねぇ、子羊さん。二千三百匹も数える集中力があるなら、それ、仕事に使いなさいよ。眠れないんじゃないの。あんた、暇なのよ」

ラジオの前で、僕は固まった。

「だいたいね、羊が eng で sheep、sleep と似てるから眠くなるって話でしょ? 日本語で『羊』数えても、意味ないの。効果ゼロ。あんた二千三百匹、完全に無駄骨。お疲れさま」

正論すぎて、ぐうの音も出なかった。

「まあでも、送ってきた度胸には免じて、今夜のBGM、子守唄にしてあげる。……で眠れなかったら、明日また来なさい。待ってるから、子羊さん」

最後の一言に、なぜか、かちんと来た。同時に、少しだけ、嬉しかった。

その夜、僕は結局眠れなかった。悔しかったから。

そして、朝までに、次のメールの文面を、三パターン考えていた。負けず嫌いにも、ほどがある。

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