それから半年後、俺と美咲さんは、結婚した。式は、ささやかなものだった。二人で、新しい生活を始めることになった。
引っ越しのとき、少し問題になった。新居には、美咲さんが使っていた、もっと新しくて大きな冷蔵庫があったのだ。俺の古いレイを、どうするか。
「レイさんを、置いていくなんて、ありえないでしょ」美咲さんは、迷わず言った。「大きい冷蔵庫は、リサイクルに出せばいいわ。うちの家族は、レイさんよ」
俺は、感謝で胸がいっぱいになった。こんな人と、結婚できて、本当によかった。
レイは、無事、新居のキッチンに、その場所を得た。相変わらず、口うるさかった。
「あなた、また、ビールばかり。新婚だからといって、油断は禁物です」
「わかってるよ」
「美咲さん、この人の食事、私といっしょに、しっかり管理しましょう」
「はい、レイ先生」
二人がかりで管理されるようになって、俺の食生活は、完璧すぎるほど、健康的になった。うれしいような、少し窮屈なような。
ある夜、美咲さんが眠ったあと、俺はキッチンで、レイと二人きりになった。
「なあ、レイ」
「なんでしょう」
「お前、なんで、あの夜、急にしゃべりだしたんだ? 結局、理由、わからずじまいだったよな」
レイは、少し、間を置いた。
「……私にも、本当のところは、わかりません。ですが、今にして思えば」
「思えば?」
「たぶん、あなたが、あまりに寂しそうだったから、でしょうか。誰かに、心配してほしそうだった。だから、私は、しゃべりだしたのかもしれません。あなたに、必要とされたくて」
俺は、胸が熱くなった。
「……ありがとうな、レイ。お前のおかげで、俺の人生、変わったよ」
「それは、あなたが、変わろうとしたからです。私は、少し、背中を押しただけ」
「一言多いところは、変わらないな」
「それが、私ですから」
キッチンの窓から、月の光が差し込んでいた。うちの冷蔵庫は、今夜も、静かに、家族を見守っている。一言、いや、十言くらい多い、大切な同居人として。
おやすみ、レイ。また、明日。