第8話: 封鎖の扉

午前零時。俺と管理人は、非常階段を上っていた。九階、十階、十一階、十二階。ここまでは、いつもの階段だ。だが、十二階の踊り場の先に、本来なら壁があるはずの場所に——上へ続く階段が、伸びていた。

昼間には、決してない階段だった。俺はごくりと唾を飲んだ。

階段の上には、鉄の扉があった。錆びて、ペンキがはがれ、太い鎖が幾重にも巻かれている。管理人が、震える手で鍵を差し込んだ。

ガチャリ、と重い音。鎖が地面に落ちた。

扉を押し開けると、冷たい風が吹きつけてきた。中は、工事が途中で止まったままの、がらんとした空間だった。むき出しの鉄骨、剥き出しのコンクリート。床はところどころ抜け落ち、真っ暗な穴が口を開けている。天井からは、切れたケーブルが垂れ下がっていた。

田口が夢で見た光景、そのままだった。

「弟……」管理人がかすれた声でつぶやいた。

奥のほうに、三つの人影が立っていた。作業服を着た、三人の男。だが、その顔には——のっぺりと、何もなかった。目も、鼻も、口もない。ただ、こちらを「見て」いるのがわかった。

そして、その三人に囲まれるように、田口が立っていた。虚ろな目で、ゆっくりと、三人のほうへ歩み寄ろうとしている。あと数歩で、届いてしまう。

「田口!」俺は叫んだ。

あいつは、ぴくりと肩を震わせ、こちらを振り向いた。俺は暗い床の穴を避けながら、必死に駆け寄った。管理人の「振り返るな」という言葉を、頭の中で繰り返しながら。

田口の腕をつかんだ。冷たかった。氷のように。

「帰るぞ。いっしょに」

顔のない三人が、ゆっくりと、こちらへ近づいてくる気配がした。

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