亡者に襲われてから、私は配達人を続けるべきか、迷っていた。
そんなある日、そら君の母親が、祖母の家を訪ねてきた。以前とは見違えるほど、元気な顔をしていた。
「あなたのおかげです」彼女は深く頭を下げた。「私、生きようって、思えました。そらのために」
彼女は、一通の手紙を差し出した。
「今度は、私からそらへ、返事を書きたいんです。届けてもらえますか」
私は、その手紙を受け取った。生者から死者へ。今度は正しい方向の手紙だった。
その満月の夜、私はあわいの道を歩いた。手紙が、道の奥へと私を導く。慎重に、脇道に逸れないよう、まっすぐに。
たどり着いたのは、小さな公園だった。ブランコに、小さな男の子が座っていた。そら君だった。
「そら君。ママからのお手紙だよ」
男の子は、ぱっと顔を輝かせた。手紙を受け取り、一生懸命に読む。
『そら、ママは元気になったよ。あなたが心配してくれたから。ママ、ちゃんと生きるね。だから、そらも、安心して。ママは、あなたのママでいられて、幸せだった。ありがとう、そら』
読み終えると、そら君は、にっこりと笑った。憑き物が落ちたような、澄んだ笑顔だった。
「ママ、げんきになったんだ。よかった」
そら君の体が、少しずつ、光になりはじめた。
「おねえちゃん、ありがとう。ぼく、もう、あんしんして、いける」
「行くって、どこへ」
「もっと、あかるいとこ。ママのしんぱいがなくなったから、いけるんだ」
成仏する、ということだろう。母への心配だけが、そら君をこの狭間に留めていた。それが、なくなったのだ。
そら君は、手を振りながら、光の粒になって、空へ昇っていった。とても、安らかに。
私は、しばらくその場に立ち尽くした。涙が、頬を伝った。悲しい涙ではなかった。
想いを繋ぐこと。それが、誰かを救い、自由にする。祖母が言っていた仕事の意味を、私はようやく、心から理解した。