そら君の母親は、すぐに見つかった。町外れの、小さなアパートに一人で暮らしていた。
昼間、私は勇気を出して、その部屋を訪ねた。ドアを開けたのは、憔悴しきった女性だった。目の下に濃い隈があり、生きる気力を失っているように見えた。
「あの、突然すみません。そら君の、お手紙を預かってきました」
女性の顔が、一瞬で変わった。
「そら……? あなた、何を言ってるの。そらは、去年、事故で……」
「知っています」私は静かに言った。「これは、そら君からの、お手紙です」
私は手紙を差し出した。女性は震える手で受け取り、読みはじめた。子どもの、たどたどしい字を。
『ママ、ぼく、げんきです。もう、ないてないよ。だから、ママもないてないで』
女性の目から、涙が溢れ出した。声を上げて、彼女は泣いた。
「そらの字だ……間違いない、そらの字……」
私は、そっと寄り添った。祖母の警告が、頭をよぎる。母を、道に引き込まないように。
「そら君は、心配しているんです。あなたが、泣いてばかりいることを。もう、泣かないでほしいって」
女性は、手紙を胸に抱きしめた。
「私、そらの後を追おうって、何度も思ったの。生きてる意味なんて、ないって」
危険だ、と直感した。彼女の心は、すでに半分、あちら側を向いている。この状態では、あわいの道に、簡単に引き込まれてしまう。
「そら君は、あなたに生きてほしいんです」私は彼女の手を、しっかりと握った。「あなたが幸せに生きることが、そら君の一番の願いなんです。手紙に、そう書いてあるでしょう」
女性は、手紙をもう一度読んだ。『ママもないてないで』。その言葉を、何度も、何度も。
「そら……ママ、頑張れるかな」
「頑張れます。そら君が、ずっと見守ってくれてます」
窓の外で、雲が晴れ、昼の光が差し込んだ。女性の顔に、少しだけ、生気が戻った気がした。
私は、彼女を、こちら側に繋ぎとめられた。そう信じたかった。