第2話: 深夜のラジオ体操

翌朝、というか、その日の深夜。

仕事から帰ると、僕の玄関の鍵が、開いていた。

閉め忘れたか? いや、そんなはずは。おそるおそる入ると、部屋の真ん中に、服部が正座していた。

「おかえりなされ」
「不法侵入だ! なんで入ってんの!」
「鍵など、忍びには、あってないようなもの」
「防犯上、最悪の隣人だな!」

服部は、涼しい顔で、一枚の紙を差し出した。

「本日の任務書でござる」
「任務書?」

見ると、丁寧な筆文字で、こう書かれていた。

『任務・その一 深夜零時、ラジオ体操により、乱れた気を整えるべし』

「は?」
「そなたの生活は、乱れきっておる。まず、体を整えることから。さあ、立たれよ」
「いや、俺、これから飯……」
「飯は、体操のあと。いち、に、さん!」

服部が、朗々とラジオ体操の号令をかけはじめた。それも、深夜零時に。しかも、動きが、いちいち忍者めいている。腕を回すだけなのに、なぜか残像が見える。

「壁、薄いんだよ! 苦情来るって!」
「案ずるな。この服部が、隣人には、あらかじめ手裏剣クッキーを配って回った。皆、快く承諾しておる」
「そういう問題じゃない!」

結局、僕は、ラジオ体操をやらされた。深夜零時に。忍者と二人で。腕を回し、体をひねり、跳ねる。ばかばかしい。ばかばかしいのに——

終わる頃には、なぜか、少しだけ、体が軽くなっていた。

「どうでござる。体が、ほぐれたであろう」
「……まあ、ちょっとは」
「明日も、この時刻に参る。心して待たれよ」
「待たねえよ! 来るな!」

服部は、満足げにうなずいて、点検口から帰っていった。

僕は、汗をかいた体で、コンビニ弁当を食べた。

いつもより、少しだけ、味がした気がした。

いや、認めない。認めないぞ、僕は。あんな怪しい忍者に、生活を正されてたまるか。

そう思いながら、僕は、翌日の深夜零時、なぜか、少しだけ、点検口を気にしている自分に気づいたのだった。

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