灯台の下に、二人で並んで立った。
白い光が、規則正しく夜をなでていく。何度この光を見ただろう。最初はひとりで見送り、やがて二人で見上げるようになった光だった。
「妹に、報告したいことがあるんです」
冬野さんが言った。
「本ができたこと。それから、律さんのこと」
海に向かって、冬野さんは静かに語りかけた。約束の本ができたよ。手伝ってくれる人ができたよ。夜の海を、一緒に見てくれる人だよ。
私は隣で、自分の失った人にも報告した。心配しないで、私はもう、ひとりで夜を漕いでいなくてもいいみたい。昼の光も、少しずつ、怖くなくなってきたよ。
報告が終わると、私たちは顔を見合わせて、笑った。
「なあ、律さん」
「はい」
「夜の仕事、続けるんですか」
「……どうしよう。昼も、少しずつ歩けるようになりたいなって、思ってはいるんです。あの喫茶店みたいな場所から、ゆっくり」
「じゃあ、一緒に探しましょう。律さんが、昼を怖がらなくなる場所を。何年かかっても」
私は、うなずいた。
帰り道、冬野さんは初めて、助手席に座った。後部座席じゃなく、隣に。
ダッシュボードには、あの絵本が置いてあった。灯台の光が回るたび、表紙の二人が、ちらちらと照らされた。
「この車、名前つけないんですか」
「名前?」
「毎晩、誰かをのせて走ってるんだから。名前があってもいいでしょう」
私は少し考えて、笑った。
「じゃあ、星でも。夜の街を、星をのせて走ってるみたいだから」
窓の外を、街の灯りが星のように流れていった。眠らない人たちの、小さな灯りが。
そのひとつひとつに、きっと、まだ誰にも言えない夜がある。
でも今夜、私の隣には、ちゃんと人がいた。
メーターは止めたまま、私たちは、どこまでも夜を走った。