涼介さんが街を発ってから、半年が過ぎた。
九州の空は、この街よりずっと星がきれいなのだと、彼はメッセージで教えてくれる。写真つきで送られてくる夜空は、確かに、驚くほど多くの星で埋まっていた。
私たちは今、名前を知り、番号を知り、時々は電話もする。普通の関係になった。彼が恐れていた「すり減って消える」関係に、私たちは足を踏み入れた。
でも、消えなかった。
約束が、ひとつある。晴れた夜、同じ時刻に、それぞれの場所で空を見上げること。彼は九州の空を、私はこの街の屋上を。離れていても、同じ夜を見ているのだと思えるように。あの雨の夜に交わした合図を、今も守っている。
「今夜、そっちから土星は見えますか」
「見えますよ。輪っかも、ちゃんと」
「こっちからも見えてます。同じ土星ですね」
「同じですよ、ずっと」
夏の大三角の話をしたとき、彼が言ったことを、私はよく思い出す。近くに見えても、実際はとんでもなく離れている。人間も、案外そうかもしれない、と。
だけど、逆もまた本当だ。どんなに離れていても、同じひとつの三角形に見える。同じ土星の輪を、同じ夜に見上げられる。
来月、彼が休みを取ってこの街に帰ってくる。初めて、昼間の光の下で、二人でどこかへ出かける約束をした。夜ではない時間に、名前で呼び合いながら歩く自分たちを想像すると、少しくすぐったい。
今夜も私は、屋上に上がる。もう眠れないからではない。ただ、同じ空の下にいる彼に、おやすみを言うために。
フェンスにもたれて空を見上げると、あの夜と同じ、頼りない黄色い光がそこにあった。何万年も前の光かもしれない。もう消えているかもしれない。それでも、ちゃんと届いている。
受け取る人が、ここにいる限り。
スマホが震えた。「見上げてます」と、彼からの短いメッセージ。私は微笑んで、同じ言葉を返した。
私たちの夜は、まだ続いている。